1.地域医療を守るために新しい地域医療構想では、それぞれの地域において「治す医療」「治し、支える医療」を実現するために「集約化」と「均てん化」が求められています。広域を担当する医療機関は、医療圏を越えて医師を派遣するなど、医療と人材育成の両方の役割を担っています。そのため、同じ医療圏内に同様の医療機関を複数設置することは、今後の医療人材の確保が難しくなることを踏まえると非効率な人員配置につながる可能性があります。このような状況に対応するためには、医療資源の効率化を図り、機能の「集約化」を進めていくことが求められます。他方で、高齢者人口の増加に伴い増え続ける高齢者救急に対しては、「均てん化」も欠かせません。本稿では、「集約化」と「均てん化」を軸に「医療機関機能報告制度」を踏まえた医療提供体制の方向性について考察します。出所:厚生労働省 新たな地域医療構想等に関する検討会(2024/12/18)「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」より弊社作成2.医育および広域診療機能を持つ医療機関に求められる「集約化」医育および広域診療機能を担う病院の役割は「集約化」です。具体的には、地域医療の最後の砦として、三次救急医療の提供や先端的ながん治療、移植手術などを安定的に実施できる体制が必須になります。また、医育機関として症例数を集めること、また高額医療機器なども集中的に医育および広域診療機能を担う病院にて整備することで、専門医などの若い医師に向けた育成環境を整えることができます。周辺に同じような規模の病院が複数存在して症例数が分散すると十分にその機能を発揮することができなくなるため、広域診療機能と併せて特定の医療機関にその機能および症例数を「集約化」する必要があります。近年では、地方の県庁所在地など都市部に医療機関を統合・集約する動きが進んでいます。この「集約化」は、医療資源を集中させて高度な医療を提供するだけでなく、医師をはじめとする医療従事者の確保や育成も目的としています。具体的には、大学病院本院規模の大規模病院や500床規模以上の地域中核病院などがあり、例えば、広島県が1,000床規模の新病院の整備を進める「高度医療・人材育成拠点構想」などがこれに当たります。3.急性期拠点機能急性期拠点機能についても「集約化」が重要です。例えば、20万人規模の医療圏には、300床規模の急性期病院が1施設しかない医療圏もあれば、4施設ある医療圏もあります。もちろん、地域ごとの人口の流出入によって状況は大きく異なりますが、限られた人口の医療圏内に中〜大規模の医療機関が複数ある場合、医療従事者などの資源が分散してしまいます。その結果、例えば人口約20万人の医療圏に300床規模の病院が3つ以上あるような場合、1つの医療機関だけで365日24時間体制の救急搬送受け入れを確保することが難しくなり、輪番制で対応せざるを得ない状況にある医療圏も見られます。各地域の状況によりはするものの、一定の人口と地域の急性期医療の中核を担う病院数のバランスは、ある程度の幅に収まるものであり、そのバランスを逸脱する医療圏においては、将来的にマンパワーの確保や救急医療、急性期医療、あるいは経営という観点で医療提供体制の維持が困難になる可能性があります。そのような医療圏の場合、同規模の病院同士を500床規模より大きな病院に統合・再編を行うことで医療資源を集中させ、持続可能な高齢者救急医療提供体制を構築・維持するなどの選択肢がありますが、今後は選択をするにしても医療従事者の働き方改革や生産年齢人口の減少も踏まえた「集約化」が求められると考えられます。過去の経験から推測すると、20万人規模の医療圏に対して1または2施設が目安になると考えます。4.高齢者救急・地域急性期機能に求められる「均てん化」高齢者救急・地域急性期機能とは、高齢の救急患者を受け入れるだけでなく、在宅医療などと連携し、急性期治療後の在宅復帰に向けた「出口」調整機能を併せ持つ医療体制を指します。20万人をひとつの医療圏とした場合、すべての救急車を一か所で受け入れることは現実的ではないため、中・小規模の民間病院を中心に、一次・二次救急医療を地域全体で「均てん化」して提供する仕組みが必要です。具体的には、200床未満の病床規模(いわゆる199床以下のかかりつけ医機能を中心とした病院)を有し、地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟などの施設基準を満たす病院が担い、軽症から中等症の高齢救急患者を積極的に受け入れます。誤嚥性肺炎など、手術を要さずに比較的少ない医療資源で対応可能な症例が増加していることを踏まえ、地域全体で面として患者を診る体制を構築することが望まれます。また、近年では一次救急の増大もあり、地域のかかりつけ患者の一次救急受け入れ病院としての機能が非常に重要になるものと考えます。このように、大規模病院だけでなく、中小病院にも重要な役割が期待されています。5.二次医療圏の再編にかかる課題第7次医療計画においては、二次医療圏の再編基準として「人口20万人未満」「患者流入率20%未満」「患者流出率20%以上」が掲げられましたが、実際の見直しは十分に進捗していません。二次医療圏の設定にあたっては、対象地域の面積や基幹病院までの搬送時間などを踏まえ、医療需要に見合った提供体制を構築することが欠かせません。つまり、集約化を議論する上で重要なのは、単に医療圏単位で考えるのではなく、改めてアクセスや人口、都道府県所在地を起点とした医療圏の立地等を複眼的に考慮した上で、「集約化」と「均てん化」を考える必要があります。厚生労働省 「第8回第8次医療計画等に関する検討会(2022/5/25) 【資料1 医療圏、基準病床数、指標について】」6. 何を指標に「集約化」と「均てん化」を進めるのか医育および広域診療機能を持つ医療機関は、医療圏を越えた医師派遣を通じて地域の医療提供体制を支えることが期待されます。また、高齢者救急・地域急性期機能については、高齢患者の救急受け入れを担う中核病院としての責務が求められます。今後は、構想区域ごとに必要な急性期拠点病院数の指標が示される見込みです。「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」では、急性期拠点病院について、アクセスや構想区域の規模も踏まえ、構想区域ごとにどの程度の病院数を確保するか設定することとされています。また、高齢者救急・地域急性期機能に関しても、地域の状況に応じた柔軟な報告方法をガイドラインで検討することが示されています。<参考資料>厚生労働省 新たな地域医療構想等に関する検討会 「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001357306.pdf広島県 「高度医療・人材育成拠点構想」https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/koudoiryou-jinzai/shinbyouin-gaiyou.html厚生労働省 第8回第8次医療計画等に関する検討会 「資料1 医療圏、基準病床数、指標について」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000946893.pdf