都道府県担当者に伝えたい!「二次医療圏」と「構想区域」の制度の違い ~構想区域の広域化で地域の課題を解決する~
2025/9/30
■地域ごとの個別性と制度を踏まえた病床配分
既存の地域医療構想では、病床数の調整に議論が終始し、本来目指すべき「医療機能の分化・連携」という本質的な議論に至っていないという課題も指摘されてきました。そのような中で新たな地域医療構想についての議論では、「急性期拠点病院を人口20~30万人に1つ確保」等といった目安が示され、人口規模に応じた医療提供体制が大きなテーマとなっています。
なぜ、今までの地域医療構想では人口規模に応じた医療提供体制の目安などが示されてこなかったのでしょうか。その根源には、地域の医療計画の根幹をなす「二次医療圏」と、地域医療構想の議論の単位である「構想区域」の制度的な違い、そしてそれぞれの地域が抱える個別性の高い事情が複雑に絡み合っていることに由来していると考えます。
本稿では、この「二次医療圏」と「構想区域」の違いを紐解き、地域の実情を反映した実効性のある議論を進めるための考え方を解説します。
出典:厚生労働省 第3回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 資料1「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(区域・医療機関機能、医療と介護の連携、構想策定のあり方)」
■二次医療圏とは?
二次医療圏は、複数の市区町村を一つの単位として、入院治療といった一般的な医療を地域内で完結できるように設定された区域です。医療法に基づき、都道府県が策定する「医療計画」の基本的な単位となり、国や自治体の議論で「医療圏」と言えば一般的にはこの二次医療圏を指します。
二次医療圏が持つ最も重要な機能は、「基準病床数制度」の単位であるという点です。基準病床数とは、その地域で過剰な病床が整備されるのを防ぐための「病床数の上限(総量規制)」です。つまり、二次医療圏は、そのエリアの医療資源の量をコントロールする上で、強力な規制の単位として機能しています。
また、国の患者調査や医療施設調査といった公的な医療統計も、この二次医療圏を単位として集計・公表されています。そのため、地域の医療課題を客観的なデータで把握し、分析する上での基盤ともなっています。
■構想区域とは?
一方、構想区域は「地域医療構想」を策定し、地域の医療関係者等が協議を行うための単位です。2025年、さらにはその先を見据え、将来の人口動態や医療需要の変化に対応できる医療提供体制を構築することを目的としています。
地域医療構想は、以下の5つの要素で構成されています。
1.将来の医療需要の推計
2.各医療機関が担う医療機能の報告(病床機能報告制度)
3.推計と報告結果を基にした地域の協議
4.協議の結果を踏まえた都道府県知事の権限(勧告など)
5.病床の機能転換などを支援する地域医療介護総合確保基金
この中で最も重要なのが3番目の「地域の協議」であり、構想区域はまさに「どのような単位で将来の医療体制を議論していくか」を定めるための枠組みです。これまでの地域医療構想では、多くの地域で二次医療圏と構想区域が同一に設定されましたが、制度上、これらは必ずしも一致させる必要はありません。
■「二次医療圏」「構想区域」の違いと病床配分の基本的な考え方
この2つの区域は似て非なるものであり、その制度的な違いを理解することが、病床配分の課題を解決するためには重要です。
出所:厚生労働省 第3回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 資料1「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(区域・医療機関機能、医療と介護の連携、構想策定のあり方)」より一部改変
この表にある通り、2つの区域は制度的な役割が異なるため、病床配分の議論は複雑になります。特に、国が進めてきた二次医療圏の統合(再編)をめぐっては、地域によって地理や医療需要、提供体制、隣接する医療圏の規模など現状に違いがあるため一筋縄ではいきません。
■なぜ、二次医療圏の統合は進まないのか
国はこれまで、人口が20万人を下回るなどの小規模な二次医療圏について、統合を検討するよう促してきました。しかし、再編はほとんど進んでいません。その理由は大きく2点に集約されます。
1.病床の都市部への集中リスク:小規模な医療圏(B圏)が隣接する中核都市の医療圏(A圏)に統合されると、基準病床数の枠が一つになります。結果として、経営体力のあるA圏に病床が集中し、B圏の医療体制が脆弱になる恐れがあります。
2.地域の医療課題の不可視化:統計の単位を統合すると、B圏が抱える医療課題がA圏のデータに埋もれ、実態として認識されにくくなります。その結果、「統計上は問題ない」と見なされ、必要な対策が後回しにされる危険性があります。
地元の医師会や自治体が二次医療圏の統合に強く反対するのは、まさにこのような制度的背景に起因しています。区域を変更するだけで医療課題が解消されたかのように見える状況は、地域として容認できるものではありません。
■なぜ、いま「構想区域」が重要なのか
厚生労働省は第6次医療計画以降、「人口20万人未満・流入率20%未満・流出率20%以上」の二次医療圏について、設定の適切性を検証し必要に応じて見直すよう促してきました。しかし、統合に伴う病床の都市部集中リスクや地域課題の不可視化といった制度上のデメリットがあるため、実際にはほとんど進展していません。
この膠着状態を打破する考え方が、「二次医療圏は維持したまま、構想区域だけを広域化する」というアプローチです。
現状の議論では、「急性期拠点病院は人口20~30万人に1つ」という急性期拠点機能の目安が示されています。全国にある330の二次医療圏のうち、人口20万人未満の二次医療圏は154医療圏とおよそ半数を占めており、現在の区域設定のままではこの議論を現実的に進めることが難しくなります。そうはいっても、前述の通り二次医療圏の統合は困難です。
出典:厚生労働省 第3回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 資料1「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(区域・医療機関機能、医療と介護の連携、構想策定のあり方)」より弊社作成
そこで、「協議の単位」である構想区域を、患者の流出入といった実態に即して広域的に再設定することが求められています。
■二次医療圏を維持しつつ構想区域を広域化するアプローチ
ここで、中核都市のA圏と隣接する小規模なB圏をモデルに、3つのパターンを比較することで、それらの違いや影響を整理します。
出所:株式会社日本経営にて作成
パターン1:従来のアプローチ
医療圏AとBは、それぞれ独立した構想区域を有していますが、本来は一体的に検討されることが望ましいと言えます。しかし現実には別々に議論される場合が多く、特に小規模な医療圏Bにおいては、急性期拠点に関する議論が十分に行われにくい状況となっています。
パターン2:全体を統合した場合
次に、医療圏AとBを一つの医療圏・構想区域として完全に統合するケースを見ていきます。
統合が進まない背景として、いくつかのデメリットが指摘されています。具体的には、統計や基準病床数の単位が一本化されることで、旧医療圏Bが抱えていた固有の医療課題が見えにくくなるおそれがあります。また、病床規制が一体化されることで、医療資源が旧医療圏Aに偏在し、地域間の格差が拡大するリスクも指摘されています。
加えて、このモデルでは、制度上「旧医療圏Aに100床あれば、旧医療圏Bにはなくてもよい」といった極端な整理すら可能となってしまいます。
パターン3:構想区域だけを広域化した場合(解決案)
そこで有効と考えられるのが、「二次医療圏は維持したまま、構想区域だけを一体化する」アプローチです。この考え方のポイントは、医療圏と構想区域を別の単位として捉える点にあります。
医療圏の枠組みが残るため、基準病床数制度や統計の単位は引き続き医療圏ごとに設定されます。これにより、小規模な医療圏Bに必要な病床が確保され、医療資源がAに過度に集中するという、統合に伴う技術的な課題や不安を解消できます。その上で、一体化された構想区域で議論を行うことにより、急性期拠点など医療圏をまたぐテーマについて円滑に検討を進めることが可能となります。
たとえば、医療圏Aで100床の新病院への建て替えを希望した場合、新しい構想区域における必要病床数の議論では認められる一方で、医療圏Aに適用される基準病床数制度上では「NG」となります。しかし、この「NG」があるからこそ、単独の増床計画にとどまらず、医療圏Bの医療提供体制も考慮した、より建設的な議論へと発展させることができます。
二次医療圏は維持したまま、構想区域だけを広域化するメリット
このアプローチでは、規制の単位(二次医療圏)で各地域の基盤を守りつつ、協議の単位(構想区域)で広域的な連携を目指すという、両者の良いとこ取りができます。これは、これまでメリット・デメリットのバランスが取れず進まなかった医療圏再編の議論を乗り越える、現実的かつ有効な「折衷案」と位置付けられます。
■建設的な議論で地域の不安を取り除く
地域医療構想を建設的に進めるには、まず制度の正しい理解が不可欠です。
「二次医療圏」が基準病床数に紐づく「規制」の単位である一方、「構想区域」は将来を協議するための柔軟な枠組みであるという違いの認識が重要となります。この理解に基づき、患者の流動や医療連携の実態に合わせて構想区域を見直すことで、医療機能の分化・連携といった本質的な議論が可能になるでしょう。
その上で、地域の医療関係者や自治体との丁寧な対話が欠かせません。「構想区域を広げても二次医療圏は維持され、病床が吸い上げられることはない」と明確に伝え不安を取り除くことが、地域の将来を見据えた議論への第一歩となります。
<参考資料>
厚生労働省 第3回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 資料1「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(区域・医療機関機能、医療と介護の連携、構想策定のあり方)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001548611.pdf
厚生労働省 第1回地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会 参考資料8「二次医療圏の状況について」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000058300.pdf
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川端 康正(かわばた やすまさ)
株式会社 日本経営 病院経営コンサルタント
令和2年から3年にかけて厚生労働省医政局地域医療計画課へ出向。病院、病院事業局、市町村、県、国と幅広いレイヤーでの支援実績・業務経験を有しており、その他公的本部や病院グループの本部への経営改善支援など、複雑な利害関係者を有する病院や複数病院を有する団体に対する支援を得意とする。病院の経営改善、経営計画の策定のほか、地域医療(構想)などをテーマにした医療機関の再編統合や機能強化、設置主体における負担金の協議などに従事した経験に基づき、経営改善に関する分析ならびに助言、計画の策定支援を行う。
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自治体病院の再編統合・経営形態の見直し、地域医療構想推進支援、経営戦略の策定・改定、公立病院の経営改善支援 ほか総務省経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー
川端康正
令和2年から3年にかけて厚生労働省医政局地域医療計画課へ出向。病院、病院事業局、市町村、県、国といった幅広いレイヤーでの支援実績・業務経験を有しており、その他公的本部や病院グループの本部への経営改善支援など、複雑な利害関係者を有する病院や複数病院を有する団体に対する支援を得意とする。病院の経営改善、経営計画の策定のほか、地域医療(構想)などをテーマにした医療機関の再編統合や機能強化、設置主体における負担金の協議などに従事した経験に基づき、経営改善に関する分析ならびに助言、計画の策定支援を行う。お電話でのお問い合わせ
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