医療機関機能報告制度の意義と展望~広域診療が支える地域医療の未来に向けて~
2025/5/7
1.医療機関機能報告制度の創設
2025年2月、政府は「医療法等の一部を改正する法律案」を閣議決定しました。この法案の柱の一つが、「医療機関機能報告制度」の創設です。
本制度は、2040年に向けた地域医療提供体制の再構築を見据え、医療機関ごとの役割を明確化することを目的としています。2027年度の本格運用に向けて、いまの段階から自院の立ち位置や今後の方向性を明確にし、地域との連携体制を構築していくことが重要です。
出典:厚生労働省「第13回新たな地域医療構想等に関する検討会【資料1 新たな地域医療構想について(地域医療構想の推進、病床機能・医療機関機能、構想区域)】」P342.制度創設の背景
■ 高齢化と医療ニーズの変化
85歳以上の高齢者人口が急増しており、医療と介護の複合的なニーズを持つ患者の増加が見込まれます。救急搬送や在宅医療の需要も年々増加しており、従来の病床機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)に着目した議論だけでは、地域の実情に対応しきれない状況が生まれています。
■ 医療機関機能に基づく制度の必要性
今後の地域医療構想においては、「治す医療」を担う医療機関と、「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、医療機関の連携・再編・集約化を促進することが求められています。こうした背景のもと、病院単位で「医療機関機能」を都道府県に報告する新たな制度が創設されました。
出所:株式会社日本経営にて作成■ 地域単位での医療機能の設定と協議
二次医療圏等を単位として地域に求められる医療提供機能や、広域的な観点で必要とされる機能を設定し、地域の医療提供体制の最適化に向けた協議と、その内容を国民や患者と共有することで、医療機関同士の役割分担と連携を促進することが制度の目的とされています。
3.制度の概要
医療機関機能報告制度とは、すべての病院に対し、「自院が地域でどのような医療機能を担っているか」を都道府県に報告することを義務付ける仕組みです。報告された情報は、地域医療構想調整会議での協議材料として活用され、地域における医療資源の配置や連携体制の見直しに反映されます。
報告対象とされる機能は以下のとおり、地域や広域的な役割に応じて分類されています。
l 高齢者救急・地域急性期機能
l 在宅医療等連携機能
l 急性期拠点機能
l 専門等機能
l 医育及び広域診療機能
出所:厚生労働省 新たな地域医療構想等に関する検討会(2024/12/18)「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」より弊社作成4.「広域」の意味と「医療圏統合」の課題
「広域」という用語は、二次医療圏という従来の区域にとらわれず、中核的な病院を複数の医療圏にまたがって配置するという考え方を示しています。具体的には、「二次医療圏に1つの中核病院」といった固定的な枠組みに依存せず、地域の医療需要や地理的条件を踏まえて、中核病院の役割を広域的に担える体制を構築することを目指しています。
これまで「医療圏統合」には、統合前には別々の医療圏間で発生していた患者の流出入が、統合後には統計上は同一圏内の移動として扱われるため、実際の医療資源の偏在が見えにくくなるという課題が指摘されてきました。統合によって医療機関までの距離が縮まるわけではなく、医療資源の偏在そのものは解消されていないにもかかわらず、数値上は流出入が減少したように見えてしまう点が問題とされています。
こうした背景を踏まえ、本制度では「統合」ではなく「広域」という用語が用いられ、医療圏を越えて中核病院を整備する方針が促進されています。
より広域な観点で求められる機能整備の例としては、以下のようなものが挙げられます。
l 医師派遣機能:医師不足地域への人的支援
l 医育機能:研修医や医学生の受け入れによる教育機能
l 広域診療機能:特定の専門分野において、広域をカバーする高度な医療提供機能
広域診療機能を担う中核病院は、多くの場合、医師の育成(教育・研修)機能も兼ね備えており、「地域医療の屋台骨」としての役割を果たしています。ここには、大学病院に限らず、医育機能を有する地方の拠点病院も含まれ、複数の医療圏にまたがる人材循環の中心的存在となっています。
5.これからの制度による変化と病院に求められる対応
医療機関機能報告制度の導入により、病院ごとの機能が明らかになり、地域内での役割分担が可視化できます。たとえば、これまで「急性期」として一括りにされていた病院でも、実際に提供している医療内容や担っている役割には違いがあることが課題とされてきました。
今後は、診療報酬の届出状況など客観的な根拠に基づく評価によって、機能に応じた適切な再編や連携が進み、限られた医療資源の有効活用が期待されます。
また、報告された内容と実態に乖離があると判断された場合には、都道府県知事が見直しを求められるようになり、地域医療構想の実効性がさらに高まることが見込まれます。
このような制度のもと、すべての病院は「いま、自院が地域でどのような役割を担っているのか」「今後、どのような機能を担うべきか」について整理し、都道府県に報告する責任があります。これは単なる制度対応にとどまらず、病院の今後を見据えた経営戦略の根幹に関わる重要なテーマです。
高度急性期・急性期を担う基幹病院として急性期の医療機能を維持するのか、あるいは、慢性期や医療・介護ニーズを総合的に受け止める地域密着型病院へと機能を移すのか。地域ニーズと将来の医療需要を踏まえた戦略的な判断が求められています。
6.地域とともに築く持続的な医療提供体制へ
医療機関機能報告制度は、地域医療の「現在」と「将来」を見据えた制度です。病院ごとの役割と機能を明確にし、地域内の医療バランスを整えることで、限られた人材や資源を最大限に活用する体制の構築を目指しています。持続可能な地域医療を実現するためには、病院単体ではなく、地域全体で医療のあり方を考える視点が不可欠です。
<参考資料>
厚生労働省「第13回新たな地域医療構想等に関する検討会【資料1 新たな地域医療構想について(地域医療構想の推進、病床機能・医療機関機能、構想区域)】」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001344036.pdf
厚生労働省 新たな地域医療構想等に関する検討会(2024/12/18)「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001357306.pdf
問い合わせ先
医療機関機能報告制度の意義と展望~広域診療が支える地域医療の未来に向けて~
自治体病院の再編統合・経営形態の見直し、地域医療構想推進支援、経営戦略の策定・改定、公立病院の経営改善支援 ほか総務省経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー
川端康正
令和2年から3年にかけて厚生労働省医政局地域医療計画課へ出向。病院、病院事業局、市町村、県、国といった幅広いレイヤーでの支援実績・業務経験を有しており、その他公的本部や病院グループの本部への経営改善支援など、複雑な利害関係者を有する病院や複数病院を有する団体に対する支援を得意とする。病院の経営改善、経営計画の策定のほか、地域医療(構想)などをテーマにした医療機関の再編統合や機能強化、設置主体における負担金の協議などに従事した経験に基づき、経営改善に関する分析ならびに助言、計画の策定支援を行う。お電話でのお問い合わせ
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