はじめに病院経営は患者数の減少や新型コロナウイルス感染症の影響、関連補助金の終了などにより、新たな課題に直面しています。本コラムでは、これらの変化を踏まえた現在の状況や病院経営の改善に向けた施策について、病院経営コンサルタントの視点から提言 します。2025年の医療需要予測とのギャップこれまで、地域医療構想では、2013年時点の将来人口推計をもとにした人口動態の変化や過去の受療率データを踏まえた、地域ごとに必要な病床数の予測が用いられてきました。しかし、この予測とのギャップ が 病院経営に大きな影響を与えています。地域医療構想の需要予測とのギャップ近年、入院・外来患者数が減少しています※。入院は診療報酬改定やDPC制度の導入による入院期間の短縮、在宅医療の拡大が影響し、外来は自己負担増加や、 かかりつけ医の普及、予防医療の進展、オンライン診療の浸透などが要因と考えられます。予測されていた2025年の高齢者医療・介護ニーズの急増 は、コロナ禍による受診控えで見直しが必要となり、高齢者の受療率も低下しました。また、出生数が減少し、小児・周産期医療のニーズも縮小しています。※出典:厚生労働省 令和 5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況「図 1 病院の 1日平均患者数の年次推移」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/23/dl/03byoin05.pdf#page=2病院経営への深刻な打撃医療機関は固定費の高い事業構造のため、2020年以降のコロナ禍の患者数減少で稼働率が低下し、経営悪化に直面しています。特に都市部の中核病院や地方の基幹病院では外来患者減少と入院期間短縮が重なり経営が悪化しました。また、コロナ対応要員の増員や感染対策コストの負担に加え、コロナ補助金の終了も収益を圧迫しています。病院経営の改善に向けた施策(1)地域ニーズを反映した柔軟な経営モデルの構築医療機関は従来の「患者数を増やして収益を確保する」モデルからの転換が求められています。特に需要が減少する地域では、地域包括ケア病棟や在宅医療へのシフトが必要です。また、地域特性に応じた医療サービスの多角化も重要で、多角化のための「医療需要の正確な把握」と、「医療需要に沿った規模やサービス内容への見直し」が欠かせません。(2)資源の効率的な配置と適正化医療機関は固定費削減のため、需要に応じた人員配置と病床数の適正化を進める必要があります。稼働率の低い病床は削減し、運用効率向上のための設備投資やプロセス改善を行います。人員配置はリストラを避けつつ定数を適正化し、段階的に対応することが重要です。(3)病院間の役割分担と再編の推進地域医療を効率化するためには、病院間の役割分担を明確にすることが重要です。一部の病院を高度な医療や専門医療に特化させ、他の病院を地域包括ケア病棟や慢性期医療に集中させるなど、各病院の強みを活かした再編を進めることで、医療の質と効率の向上が期待できます 。地域の現状を踏まえたアプローチの重要性患者の受療率低下により、地域医療構想に基づく病床数基準が現状に合わなくなっています。コロナ禍以降、地域ごとの医療需要が多様化し、都市部では感染症対策が重視される一方、地方では高齢者人口の減少に伴い医療需要自体が低下しています。そのため、画一的な基準ではなく、地域特性に応じた柔軟なアプローチが必要です。加えて、医療需要の減少に対応するには、病院間の役割分担を明確化し、病床数削減や地域包括ケア病棟への再編など医療機能の再編・統合を進める必要があります。これには短期的改善と長期的戦略の両立が求められます。最後にコロナ禍を経て患者数の減少や病院収益の悪化に対応するためには、適切な規模への再編と地域連携の強化がこれまで以上に重要となっています。これらの施策を通じて、医療機関は地域特性に応じた持続可能な経営モデルを構築し、地域住民に質の高い医療を提供する基盤を整えることが期待されます。